1. 「リズニーリゾート」、「ルンパ」、「SK2;sk2;SK2;SK-II;SKーII」と戦う
多くのブランド育成現場のプロが「自由連想が望ましい」と言っているにもかかわらず、自由連想ベースのブランド調査が普及しないのは、大量の回答を自由連想型で答えてもらうのが「現実的でない」からだというのが直接的理由かと思いますが、もう一つの難関が自由に書かれた回答を読み解き正式のブランド名にまとめ上げる「アフターコーディング(または「名寄せ」)」という作業の大変さです。
私もこの調査の話をしたとき現場のプロの方々から「アフターコーディングはどうするおつもりですか」という質問とも諦観ともつかない言葉を投げかけられました。勝手に自由連想でデータを取るのはいいですが、そのあといかに大変かお分かりですかという趣旨だったと思います。
調査が終わり、データが届いてその真の意味を実感することができました。その大変さは明らかに事前の予想をはるかに超えていました。難しさは2つです。
さまざまに書かれた名前を正しい名前(ブランド名;企業名;商品名;・・・)に直すことが一つ。「ルンパ」を「ルンバ」に直す作業です。これは思いのほか大変でした。以下は、今回「ディズニー」としてまとめたもののオリジナルの表記です。
disney |
Disney Resort | Disneyland |
TDL(半角) |
TDL(全角) | TDL,TDS(半角) |
TDL、TDS(カンマ全角) |
TDR(半角) | TDR(全角) |
ディズニーリゾート |
デズニーランド | デズニーシー |
デズニー |
デイズニーランド | デイズニーランド |
ディーズニーランド |
ディーズニーシー | デズニィーシー |
デズニィーランド |
東京デズニーランド | 東京デイズニーリゾート |
これだけだと思っていると、小文字の「tdl」、「tds」、「tdr」が出てきて、さらに「オリエンタルランド」や、なぜか途中から半角の「オリエンタルランド」が出てくるという具合でした。究極は「リズニーリゾート」です。
これは偶然見つかったのですが、私たちの想像力の限界を超えていました。このようにあらゆる手を尽くして見落としがないかを確認してきましたが完全に名寄せができたかというと不安が残ります。
なお、今回名寄せ前のオリジナルな状態で挙がった名前の総数は約19000、1つしか挙がらなかった名前の数が最少が家電通信で799、最多が食品で1689と典型的なロングテールの分布をしています。
ご参考までに1つしか挙がらなかった名前のごく一部を食品領域からご紹介します。以下の表1には60個の名前が並んでいますが、実際には1689個ですからその25倍強の名前が挙がったことになります。この調査の面白さ(と大変さ)の一端を味わっていただけるのではと思います。
表1 1つしか挙がらなかった名前の一部(例;「食品」の領域)
日清台湾まぜそば |
白州 麦味噌 箱根 箱根そば 八海山 発泡酒 鳩サブレ 板豆 繁ちゃんラーメン 飯田橋ラリアンス 晩杯屋 尾花 尾張屋ヴェリーフード 美人鞋 美登利寿司 美味しい 美味しい神戸牛が食べられるホリエモンのおみせでどんなお肉か知りたい 蒜山ジャージー牛乳 不安自分 富士そば 富澤商店 武蔵の森コーヒー 伏水酒蔵小路 福すし 分からない 米粉パウダー 米粉パン 宝焼酎 すりおろしレモンチューハイ 豊島屋 北海道産 札幌中央市場、魚介類 |
さて、もう一つの問題はどのレベルの名前にまとめるかです。典型的には「花王アタック」、「サントリープレミアムモルツ」、「トヨタクラウン」のように企業名+商品名で出てくるケースをどう扱うかです。これには理屈的な決め手はありません。
この調査では、「花王アタック」と答えた人の頭には「花王のアタック」と記憶されていると考えて階層の上位の名前「花王」でまとめることにしました。したがって「花王」のカウントの中には「花王」だけではなく「花王~」のようなケースも多数含まれていることになります。
例外もいくつかあります。例えば、「のぞみ」、「はやぶさ」、「かがやき」や「~新幹線」はすべて「新幹線」としました。また、上で紹介した「ディズニー~」など一群の名前は正式には「東京ディズニーリゾート」でまとめるべきところですが「ディズニー」でまとめてあります。大変興味深いのですが「東京ディズニーリゾート」と正しく書いてあったのは1つもありませんでした。
2. 好感想起の生データからブランド力指標(=BSスコア;BSはBrand SeitaiのBS)をつくる
前回も述べたように、この調査では「食」、「住まい」などの領域を決めてその中で「好感を持っているもの」の名前を書いてもらっています。そこで名前が挙がるということはそのブランドがその回答者の頭の中で「好き」と記憶、刻印されているということです。したがって、ブランドごとに挙がった回数を数えればそれは各ブランドのブランド力の原データになるはずだと考えました。
この調査では、その回数に基づいてブランド力指標を導く際に大胆な2つの約束をしています。一つは、「食」における回数も「住まい」における回数も同等に比較可能であるという約束です。逆に言えば、ある領域が狭く具体的に設定されていて名前が挙がりやすい、ということのないように十分慎重にバランスに配慮して領域が設定されているという想定です。
それでも、どのような根拠で比較可能と主張できるのかと聞かれると明快な答えはありません。ただそれはオリンピックで柔道の金メダルと水泳の金メダルのどちらが重いのかと問うようなものだと考えるとおゆるしいただけるのではと考えています。
もう一つは、一領域で三つまで好きなブランドを挙げてもらうのですが、何番目に挙がっても1カウントという約束です。普通は最初に挙がったものの方が好感度が高いので挙がった順番でウェイト付けすべきと考えます。
いくつかのケースでウェイトなしの場合と【.5;.3;.2】とウェイト付けした場合とを比べましたが順位にほとんど変わりがありませんでした。これは、多くのブランドが1番目、2番目、3番目と程よく分布していて、すべてが1番目に、またはすべてが3番目に挙がるという特異なものがないという事情によっているのかと思われます。
この2つの約束によりブランド力指標の算出は非常に簡単になります。以下の表2では複数の領域で名前が挙がった「パナソニック」を例にナマの好感想起回数からどうやってブランド力指標=BSスコアを作り上げるかを示すことにします。
表2 好感想起回数からブランド力指標=BSスコアをつくる:パナソニックの例
BSスコア(合計値÷100;切捨て) 20
領域 |
好感想起回数 | 10000人当りスコア |
固定領域(回答者全員に聞く領域) 1.住まい 2.クルマ・交通 3.街 4.生活雑貨・日用品 選択領域(3/7の回答者に聞く領域) 1.ファッション 2.家電・通信 3.美容・健康 4.情報メディア 5.レジャー・エンタメ 6.食品 7.ショッピング先 計 |
174 18 0 76 0 481 38 5 0 0 0 |
(回数×10000/7410) 234.8 24.3 0 102.6 (回数×7/3×10000/7410) 0 1514.6 119.7 15.7 0 0 0 2011.7 |
まず、回答者全員(今回は7410人)が答えている固定領域と、その3/7の人にしか聞いていない選択領域を分けて考えます。両方の領域で、好感想起回数を10000人当りの数字に換算します。ナマの回数に固定領域では10000/7410を掛け、選択領域では7/3を掛けた後に10000/7410を掛けます。
そしてそれらを全領域で足し合わせた2011.7という数字が「パナソニック」という名前が挙がった全回数を10000人あたりに換算したスコアになります。それを比率に直して小数点以下を切り下げた「2011.7/10000=20.117」⇒「20」がパナソニックのBSスコアになるというわけです。
この数字は10000人のうち何人がそのブランドを挙げたかから算出されていますので、回答者の約20%の人が「パナソニック」という名前を挙げたことになります。
3. ブランド力ランキング トップ50:ディズニー、イオン、パナソニックがトップ3
このようにして名前が挙がった全ブランド19000個余りについてBSスコアを計算し大きさの順に並べることができます。実際に名寄せをしたのは各領域上位30ブランド、延べ330ブランドです(そこには重複も含まれています)。以下では、上位50ブランドのランキングとBSスコアを発表しましょう。
各領域ごとの結果と首都圏と関西圏の東西比較については、『マーケティング ホライズン』7号(7月中旬発行)の「ブランド生態調査特集」で発表しますので、少しお待ちいただけますか。
表3 ブランド力 トップ50
《ブランド》 |
《BSスコア》 |
1.ディズニー |
25 |
《ブランド》 |
《BSスコア》 |
11.ニトリ |
9 |
《ブランド》 |
《BSスコア》 |
21.花王 |
6 |
《ブランド》 |
《BSスコア》 |
31.JAL |
4 |
《ブランド》 |
《BSスコア》 |
41.しまむら |
3 |
片平 秀貴 (かたひら ほたか)
丸の内ブランドフォーラム 代表
2001 年、「丸の内」ブランド再構築のお手伝いがきっかけで丸の内ブランドフォーラム(MBF)創設。
「社会に笑顔の循環をつくる」の信念のもと、同志とブランド育成の勉強と実践を続けている。
丸の内ブランドフォーラム
URL: www.mbforum.jp