新しいブランドの眺め方(2):ブランド生態図

新しいブランドの眺め方(2):ブランド生態図

世間では何となく「ANAのファンはクルマだとBMWが好き」、「スターバックスのファンはニトリよりIKEAが好き」、「P&Gのファンは楽天よりAmazonが好き」といったことが何の根拠もなく語られることがあります。

われわれのデータはこれを事実ベースで確認することができます。どれももっともらしいですが、結果を先取りして申し上げると正しいのは2番目だけでした。ANAファンは特に好きなクルマのブランドはなし、P&GファンはAmazon、楽天ともに取り立ててファンではありませんでした。特にANAは61個の親近なブランド(「親近」は以下で説明します)が確認されましたがその中にクルマのブランドは一つも入っていませんでした。

ブランド親近度

 

今回の調査では、あるブランドのファンが目立ってほかの特定のブランドのファンであるかどうかを判定することができます。その指標を「ブランド親近度」と呼ぶことにしますが、それは、具体的にはつぎのように計算されます。


ブランド親近度=[ブランドAファンの中のブランドXファンの比率]÷ [全回答者の中のブランドXファンの比率]×100


例えば、IKEAのファンは全サンプルでは4.9%(上の式の分母)ですが、スターバックスファンに限定するとIKEAファンは12.1%(上の式の分子)になり、ファン濃度は全サンプルの場合の2.48倍になります。それを100倍して両者の親近度は248というわけです。面白いことに上の式でAとXを入れ替えて計算してもその値は変わりません。2つのブランドの間の親近度はどちらから計算しても同じ、すなわち対称的なのです。


ブランドAファンの中のブランドXファン比率が全サンプルのブランドXファン比率と同じとき親近度は100になり、ブランドAとブランドXは互いにとりわけ親近でも疎遠でもない「普通」の状態にあることになります。どのブランドも特に特定のブランドに対して親近ではない場合にはすべてのブランド・ペアについて親近度は100となります。


土壌に差がなくすべての植物は均等に全面に散らばっているという状態です。今回は親近度200以上を「親近」と判定しました。計算してみると、実際には200以上のペアが多数見受けられ、親近度が1000を超える、すなわち、全体比率の10倍以上になるケースもかなりの数ありました。「ブランドは群生する」という本調査の仮説は成立しているようです。表1に例として、いくつかのブランドを基軸に算出された親近度によるランキングを示してみます。

 

【表1:親近度ランキング(例)】

  スターバックス 無印良品 IKEA FrancFranc Seria
1 タリーズ ユナイテッドアローズ Peach ロフト キャンドゥ
2 ドトール 東急ハンズ 東京インテリア ZOZOTOWN ダイソー
3 ライザップ カルディコーヒーファーム ルクア 資生堂 しまむら
4 ケンタッキーフライドチキン アクタス ルミネ スターバックス GU
5 ミスタードーナツ 毎日新聞 コストコ ららぽーと ニトリ
6 丸井 タリーズ ニトリ Seria Francfranc
7 マクドナルド ケンタッキーフライドチキン ZARA IKEA 無印良品
8 モスバーガー SK-Ⅱ 三井アウトレットパーク ニトリ ヨドバシカメラ
9 Francfranc ロフト H&M ダイソー 新幹線
10 ルミネ Seria ケイトスペード 激落ちくん 日産
11 Magica ちふれ 任天堂 無印良品 ららぽーと
12 ファブリーズ オキシクリーン ちふれ ジョイ マツダ
13 アウディ Instagram ZOZOTOWN ソニー IKEA
14 ファミリーマート イトーヨーカドー Francfranc マツダ スターバックス
15 新幹線 セキスイハイム ライフ ディズニー  
16 IKEA Francfranc 京王電鉄    
17 ルイヴィトン 京王電鉄 Magica    
18 メルセデス・ベンツ 阪急電鉄 フォルクスワーゲン    
19 dyson IKEA オルビス    
20 ルンバ NIKE GU    
21 無印良品 マツダ 東京メトロ    
22 クイックル 劇団四季 ケンタッキーフライドチキン    
23 Seria ワコール JR    
24 NTTドコモ 丸井 GUCCI    
25   ニトリ モスバーガー    
26   三井アウトレットパーク 激落ちくん    
27   星野リゾート Instagram    
28   三井不動産 ジョイ    
29   Twitter ウタマロ    
30   ファンケル クイックル    
31   SUUMO ファブリーズ    
32   積水ハウス 無印良品    
33   ダイソー メルカリ    
34   スターバックス スターバックス    
35   住友林業 ニベア    
36   JR ららぽーと    
37   Google LINE    
38   カルビー ハイター    
39   小田急電鉄 P&G    
40   ユニクロ 高島屋    
41   ウタマロ Seria    
42   フォルクスワーゲン セブンイレブン    
43     ダイハツ    
44     オートバックス    
45     セイコー    
46     ANA    
47     ボールド    
48     dyson    
49     しまむら    

 

ブランド生態図と「山脈」

 

表1を見ると、スターバックス、無印良品、IKEA、Francfranc、Seriaの5ブランドがすべてのペアでお互いに親近で「完全親近グループ(以下「完全グループ」と呼びます)」を形成していることが分かります。これを図に表わしたものが図1で、このような図を「ブランド生態図」と呼ぶことにします。今回の調査で挙がった多数のブランド群は日本列島に横たわる山脈のようにいくつかの山を形成しているのが分かってきました。以下では各グループを山になぞらえて「~山脈」と呼ぶことにします。


このスターバックスなど5ブランドのグループはその代表選手の名前を取って「無印山脈」と呼ぶことにします。なお図1~図3では、赤線の円は5つ以上、緑の線の円は4つの完全親近な核ブランドを持つグループを表していて、赤地白抜きのブランドは完全親近な核ブランドです。

 

【図1:「無印山脈」】

 

以下ではさらに2つの山脈をご紹介します。図2はメルセデス・ベンツ、BMW、レクサスなどの高級車ブランドを核とするグループで、この3者が互いに親近なのはもちろんですが、そこに住友林業と積水ハウスという住宅ブランドも加わって完全グループを形成しているのは興味深いです。また、dysonは比較的新しい家電ブランドですが、メルセデス・ベンツ、レクサス、ROLEX、ルイヴィトンと完全グループをつくり、BMW、ポルシェとも親近性が高いという特異な位置を占めています。これを「メルセデス山脈」と呼びましょう。

 

【図2:「メルセデス山脈」】

図3は花王、ライオン、P&Gを核とするグループです。これらの3つと親近性の高いブランドを挙げて相互の親近性を確認していくと、日本の代表的消費財ブランドの多くが吸収されて大きな「日本代表」のようなグループが出来上がりました。これは日本のブランド群のど真ん中という意味で「中央山脈」と呼ぶことにします。

 

【図3:「中央山脈」】

自分のブランドを核としてこのような図を作ることにより、自分たちはどのブランドとファンを共有しているのか、また、共有していないのかが分かります。そしてこの連載の後のほうで紹介するブランド・キーワードの情報をかぶせると自分たちのどこが好かれていたのか、自分が属するグループのファンはどんな人たちかが分かることになります。

実はこの親近性の分析はやってみるととても楽しいです。その楽しさの源泉の一つは俗説を覆す発見が次々に見つかるところにあるようです。以下ではその一端をご紹介しましょう。

 

サプライズな発見

 

<発見その1:意外なブランド同士が親近>
■dysonとメルセデス・ベンツ、BMW、ポルシェ、ライザップ
■InstagramとJAL、ニトリ
■ニトリとCOACH、ZARA、Instagram、原宿
■東京電力とボールド、ジョイ、アリエール(P&Gの商品)

これらは互いに親近なブランド群で、「おや?」とか「なぜなの?」とお思いの方も多いのではないかと思っています。そう思っているのは筆者だけかもしれませんが。

 

<発見その2:図3の中央山脈を形成する日本代表ブランドはAmazon、楽天とは特に親近ではない>
Amazonと楽天に親近なブランドリストを表2aと表2bに示します。図3のブランドが一つも入っていません。親近度は対称なので、図3のどのブランドの親近度リストにもAmazonと楽天は入っていないことになります。

 

表2a:Amazonと親近なブランド

楽天

メルカリ ユナイテッドアローズ YouTube イトーヨーカドー

Yahoo!

京阪電鉄
ドン・キホーテ adidas サンドラッグ

大塚家具

ローソン アリオ 東急ハンズ ZOZOTOWN

Google

ヨドバシカメラ ロフト 京王電鉄 アサヒ

ルミネ

小田急電鉄      

 

表2b:楽天と親近なブランド

Amazon

三菱自動車 Yahoo! マツモトキヨシ 大塚家具

SUUMO

サンドラッグ ウェルシア薬局 住友林業 ローソン

メルカリ

三井アウトレットパーク アウディ    

 

<発見その3:InstagramファンはTwitter、LINE、YouTubeは好きでもYahoo!、Google、Amazon、楽天などは特に好きではない>
Instagramに親近なブランドを表3に示します。同じオンライン・ブランドでもリアルを前提に外とコミュニケーションするInstagramグループとネットで完結するYahoo!グループとはファンが重複しないのかもしれません。

 

表3:Instagramと親近なブランド

Twitter

LINE YouTube JAL マクドナルド

無印良品

dyson IKEA ニトリ  



<発見その4:(これが一番ショッキングです)ほとんどの業界1位、2位(、3位)ブランドは実は同じファンを共有している>
■ANAとJAL
■花王とライオン
■Yahoo!とGoogle
■Amazonと楽天
■スターバックス、ドトール、タリーズ
■アサヒ、KIRIN、サントリー
■セブンイレブン、ローソン、ファミリーマート
■明治と森永


 

これについては次回詳しくご紹介しましょう。

 

片平  秀貴  (かたひら  ほたか)
丸の内ブランドフォーラム  代表
2001 年、「丸の内」ブランド再構築のお手伝いがきっかけで丸の内ブランドフォーラム(MBF)創設。
「社会に笑顔の循環をつくる」の信念のもと、同志とブランド育成の勉強と実践を続けている。

丸の内ブランドフォーラム

URL: www.mbforum.jp

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