今までの成功体験ではモノは売れない

今までの成功体験ではモノは売れない イラスト 加納徳博

生活者との対話から見えてきたホンネ
リサーチ・アンド・ディベロプメントではリアルなコミュニティを運営しています。実際のターゲットたちとの対話を重視し、長期的に「生活者のホンネ」と向き合っています。

2012 年からシニア市場を意識し、心と時間に余裕のある65歳から75歳までの女性18名を集い「iDOBATA KAIGI(イドバタカイギ)」をスタートしました。いわゆるステレオタイプのシニアとは違い、彼女たちは毎日を若々しく活動的に生活しています。シニアといえば「健康」というキーワードが大切と言われますがその健康の中身は「活き活きと美しく生きること」つまり「美容」の要素の方が大切なことがわかりました。ただ、消費に対しては旅行や食といった分野は積極的ですが財布の紐は硬くこれから長く続く老後に備えているようです。


そこで私は、シニアとは真逆の存在である若者に注目をしました。いつの時代も男性は消費をしない存在として位置付けられていました。しかし、今は「◯◯男子」と少々失礼な分類の仕方ではありますが、若者間では以前はデートの代名詞であるディズニーランドへ男性同士の友達と楽しんだり、我々からすると少し敷居の高いロクシタンカフェも男性同士の友達で行ったりしています。今までの男性とは違った消費行動が見えてきています。


そこでR&Dでは2014年から「U26平成男子コミュニティ(以下、U26)」を運営しています。20歳以上の平成生まれの男性18人を集い、毎月のコミュニティでは顔を合わせて、オンラインコミュニティではLINEのグループラインを活用して様々なテーマで議論を続けています。


安くても快適な生活を実現
「消費のしどころが変化した」
総務省のデータ「全国消費実態調査」(1989~2014年)で見ると、実は30歳未満のシングル有職者では、概ね20年~25年前に比べて可処分所得も貯金額も、男女ともに増えてきています。また、長いスパンで見ると、女性の消費支出や消費意欲は常に男性より高い傾向にあり、おおむねその傾向は変わっていないのですが、男性だけはこの5年ほどで、消費支出や消費意欲=〝モノを買う〟お金と意欲は大きく減少しました。
 デフレが続く日本社会では、品質の向上や生産の効率化など企業のイノベーションによって、少しのお金でも、高品質なものが簡単に買えるようになりました。〝安くていいモノが当たり前〟な社会となり「高いモノがいいモノ」だという概念すらなくなりつつあるのかもしれません。


デフレに突入して以降、メーカーは戦略として、製品の性能や機能を重視、つまり、車であれば燃費、デジカメであれば解像度など、数字に表れやすい、目で違いがはっきりわかる部分を軸にして、商品の開発や販売を進めてきました。


そうしたスペック競争や価格競争は激化していき、さすがに、リーズナブル感での勝負は限界に来ています。だからといって、いまさら高級志向に戻そうとしても、生活者は納得できません。
つまり、消費環境の大きな変化によって生活者の“消費のしどころ”が変化したのではないでしょうか。


若者はネットでもリアルでもお店に向かわない事実
たとえば、ある20代の青年が、会社の先輩の結婚式に呼ばれているので、ブルー系のスーツを買いたいとします。
いままでなら、まずスーツ専門店やデパートの紳士服コーナーに足を運んでみるという方が多かったのではないでしょうか。もしくは、ネットを使うにしても、ゾゾタウンなどファッション系通販サイトの検索欄に「スーツ ブルー フォーマル」などと打ち込んで検索し、気になるショップなどをチェック。そこから具体的に「どんなスーツがあるのか」へと進んでいったかと思います。


しかし、いまの若者は、全く異なる方法で購入します。彼らは、リアルはもちろん、ネット上でも「お店」に向かいません。まず、スマートフォン(以下、スマホ)を使い、SNSで「♯(ハッシュタグ)結婚式、♯スーツ」と検索します。リアルな結婚式でスーツを着たシーンにたどり着きます。そして、たくさんの画像の中からお気に入りのものを探し出し、それを売っているショップなどの情報へ飛ぶのです。
若者にとってお店でのアドバイスや企業のホームページ情報よりリアルな生活者の情報を頼りにしていることがわかりました。


「シミュレーション消費」という新しい消費行動
「面白かったけど、“つまらなかった”」─こんなコトバが、あるU26参加者の口から飛び出したことがありました。最近した旅行を振り返っての感想です。
最近では、たくさんの情報を元に旅行を計画できます。旅行会社の案内のほか、行った人のレビューを読んだり、現地の写真や動画を見たり。こうして情報を集めるうちに、旅先のシミュレーションができてしまいます。「面白かったがつまらなかった」という一見矛盾した言葉は、旅行先での体験が想定内だったために出たのではないかと思います。


「シミュレーション消費」には、やはりスマートフォンの影響が大きいです。ソーシャルメディアでも動画付き、写真付きでの投稿が増え、「見たことのない光景」へ簡単にアクセスできるようになりました。旅行に限らず、商品であっても、広告とは異なる実際の見た目、生活者が使った際の実感や利用シーンを目にすることができます。そうするうち、当の商品やサービスは、「本当に自分にとって必要なものなのか」という自問自答を行います。そして考えているうちに「特に必要なさそうだ」と購買意欲が衰退してしまうこともあります。


この「シミュレーション消費」を超えることがこれからの消費行動のポイントとなります。


「シミュレーション消費」を乗り超える
これまで見てきたように、若者はシミュレーション消費で満足する向きがあります。シミュレーション消費は、若者の堅実さの表れでもありますが、それは、彼らが確かな価値を真っ当に評価する目を持っていて、いいモノ、いいサービスであれば順当に消費が動く証だとも言えるのです。


そんな若者も衝動買いもしますし、必要と判断すればすんなり買います。その分かれ目になるのが、シミュレーションしてもその先にまだ何かありそうだというワクワク感が提供できるかです。
若者が求めているのは、意外にも単純なことです。いいモノを提供することは大前提ですが、それが他のモノとどう違うか、どんなふうに優れているかを、消費者である若者たちに伝え、その商品やサービスによって実現する、より楽しい暮らしをイメージさせることなのです。


新しい付加的な価値や機能ばかりを打ち出しても、そのモノの本質がかえってわからなくなっていくのでは本末転倒で、結局のところ、〝本質回帰〟が、若者にも求められているのはないでしょうか。

 

■U26平成男子コミュニティのお問合わせは■
コミュニティメンバーに質問してみたい、座談会を行いたいなどのお問合わせは下記まで
株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメント
セールスプランニング部 TEL:03-6859-2281
URL:http://www.rad.co.jp

この記事は 5269 回読まれました
コメントするにはログインしてください。