マーケッターが押さえておくべきデジタル広告のリスクとは

マーケッターが押さえておくべきデジタル広告のリスクとは

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2024年夏号『市場創造』に記載された内容です。)

昨今、インターネットやSNSの領域で様々な問題が取りざたされている。直近話題になっているのは偽情報や偽広告などであるが、それ以外に企業のデジタル広告費がかすめとられる、もしくは企業やブランドに傷がつくような問題事象があることをご存知だろうか。ここではマーケティングの重要な手段となったデジタル広告をそのようなリスク事象から守るためにマーケッターはどう考えるか、どうすべきかについてお伝えする。

 

1.デジタル広告の市場と問題


 

本年2月に発表された電通の「2023年日本の広告費」によると、デジタル広告(インターネット広告)は前年比107.8%の3兆3330億円となり、総広告費の45.5%を占める広告メディアに伸長した。これは投資効率が問われる昨今の経営環境において、デジタル広告が、「ターゲティングできる」「少ない金額でかつ短い準備期間でプロモーションが組める」「効果が数字で把握しやすい」などの面で他のメディアに比べ優れた特長を保有しているからに他ならない。

このようなデジタル広告であるが、ここ数年、広告掲載の点でいくつかの問題を抱えていることについて多く語られるようになってきた。その代表的なものが「アドフラウド(広告詐欺)」と「ブランド毀損」である。

アドフラウドは自動化プログラム(BOT)などの不正な手法によってクリックや広告の閲覧数(インプレッション数)が水増しされ、広告費がかすめとられてしまう詐欺的行為を指す。広告は人が見たり、クリックしたりすることによって効果につながるものであるが、それが人ではないものによってカウント数が増やされているというのだ。このような問題に対応して対策ツールを提供している計測会社によると、対策をとっていない場合は10%前後かそれ以上の割合でアドフラウドの被害にあっていると言われている。仮に10%とすると、クリック数が1000と報告された請求されたうち100のクリックがアドフラウドであり、この部分が水増しされた費用分ということになる。

また、ブランド毀損は広告掲載に不適切なサイトや面に広告が出てしまう問題であり、その毀損からブランドを守るという視点から「ブランドセーフティ」問題とも言われている。この問題で気をつけないといけないのは、広告主が自社のブランドイメージが傷つく被害者になる側面だけではなく、例えば海賊版のサイトに自社の広告が掲載されてしまった場合、当該サイトの運営者に広告費を通じて資金提供したとみなされ、広告主が加害者側に位置付けられてしまう可能性もあるということだ。

この2つの問題対応を放置することは

(1) 貴重な広告費(マーケティング費用)をアドフラウド分浪費する
(2) 無価値なアドフラウド分も有効なインプレッションやクリックと誤認することによって、施策効果を見誤ることになる
(3) 広告掲載が良いイメージの醸成とは逆にむしろブランドイメージを傷つけかねない
 という点でマーケッターにとって由々しき問題であり、状況をしっかり把握したうえで対策をとらなければならない。

なお、昨今メディアなどで話題になっている「なりすまし広告・詐欺広告」は問題のある広告(広告主)が引き起こしている事象であり、上記のアドフラウドやブランド毀損は一般の広告(広告主)がその掲載において問題事象に遭遇するという点で図表1のように異なる領域の問題であることを付け加えておきたい

 

図表1:対象となる問題範囲の違い

 


2.問題への対策とデジタル広告品質認証機構(JICDAQ)


 

アドフラウドやブランドセーフティ問題についての対策としては

■掲載して欲しくないサイトや掲載面を予めリストアップして、そこへの掲載を回避する(ブロックリスト対応)
■リストアップした安全と思われるサイトや掲載面のみを出稿対象とする(セーフリスト対応)
■限定した広告主と媒体社のみが参加している市場(プライベートマーケットプレイス=PMP)で取引をする。
■専門のツール会社に有料で対策をしてもらう(アドベリフィケーションツールの利用)
など図表2のようにいくつかの対策が存在するが、いずれもマンパワーや費用の点で負担が大きく、リスク対応のための人的リソースや追加の予算の確保が難しい広告主にとっては問題を認識しながらも手をつけられない状況にあった。

 

図表2:主な対応策一覧

そこでアドフラウドやブランドセーフティへの対策を講じている事業者を定められた基準にもとづき認証し、その認証を取得した事業者を公開するという仕組みを業界団体が協同して作ることになった。そこで設立されたのが「一般社団法人デジタル広告品質認証機構、通称JICDAQ(ジックダック)」である。JICDAQが認証を取得した広告関連事業者をウェブサイトで公開し、その事業者を広告主が選び発注することで、アドフラウドやブランド毀損に遭遇する確率を下げることが可能になる。

JICDAQは図表3のような広告関係の三つの団体によって2021年3月に設立された。また、認証基準をクリアする業務プロセスが整備されているかを検証・確認する第三者機関として一般社団法人日本ABC協会もこれに関わっている。

 

図表3:JICDAQとは

設立から3年が経ち、2024年7月時点でJICDAQの「品質認証事業者数」は169、認証取得を目指している検証中の事業者も含んだ「申請者数」は189と数多くの広告関連事業者(広告会社、媒体社、広告仲介事業者など)が関わる団体となっている。また、JICDAQでは広告主向けに「登録アドバタイザー」の制度を設けており、現在の登録社は138にのぼる。

*その他、デジタル広告の出稿ビジネスには関わっていないが、JICDAQの趣旨に賛同し、登録料を負担いただいている賛助登録事業者が4社登録している。

 


3.調査結果


 

肝心なJICDAQの効果であるが、例えばアドフラウドに関して言えば、一般に無対策の場合のアドフラウドの発生率は10%程度と言われるなか、JICDAQの認証事業者を広告主の発注からメディアでの掲載までの商流のなかに2社以上組み入れた場合は図表4のような0.5%~4.2%となっている。つまり、JICDAQの認証事業者を出稿プロセスに組み入れることで、アドフラウドは大幅に減るということだ。

 

図表4:JICDAQ商流におけるアドフライド対策効果

 

このようなJICDAQであるが、前述のデジタル広告の問題も含め、十分に認知が進んでいないことが課題となっている。昨年、JICDAQが行った調査によると、ブランドセーフティという問題について、「ワードも内容も知っている」と答えた広告主は50.5%であった。またJICDAQを「知っている」は20.4%にとどまり、これに「見聞きしたことがある程度」との回答を含めても45.2%といずれも半数程度にとどまっている。

今回初めて問題を認知した方も、JICDAQ認証事業者に発注するだけで対策がとれるので、是非今後の発注の際に意識していただけたらと思う。

 


4.マーケッターに望まれること


 

ここまでお読みいただいたマーケッターの方のなかには、「デジタル広告としてとりあえず現在十分成果が出ている。現状のままでよいのではないか」と、これらの問題に取り組む優先順位をあまり高くとらえていない方もいるかもしれない。しかし、前述のようにアドフラウドがあると、マーケティング費用がかすめ取られているうえに、広告効果が正確にとらえられない状態にある点に留意いただければと思う。

加えて、図表5のように多くのBtoC企業の売上や購買接点はまだ圧倒的にリアルベースである。従って、仮にデジタルプロモーションの成果が高かったとしても、ブランドセーフティが担保できないサイト・掲載面に広告が出てブランドイメージの毀損が起きた場合、リアル接点にもマイナス影響を及ぼしているかもしれない。マーケティング施策全体を俯瞰すればブランド毀損対策をとる必要性は明らかであろう。

 

図表5:マーケティング施策全体で捉えることが必要

 

また、アドフラウドやブランドセーフティに敏感な広告出稿は「デジタル広告全体のエコシステムの維持」にもつながる。ブランドセーフティを担保できない「インプレッション単価が安い掲載面」、アドフラウド率が高いかもしれない「クリック単価が安いサイト」などに広告が集まり続けることは、他方で安全で安心できる掲載面やサイトを運営しているメディア(媒体社)に広告費が流れない状況を生み出している。結果、良質なメディアが衰退してしまうと、そのようなメディアに広告を出そうとしてもメディア自体が存在しないという状況を生み出しかねない。このような中長期の視点も踏まえ、高い見地からの対策をとった広告出稿が求められている。
 
最後になるが、JICDAQでは安心・安全な広告出稿のために、各種講座や情報提供機会を設けている。前述の広告主企業を対象とする「登録アドバタイザー」に申し込んでいただけ れば無料でこれらを受講可能となる。是非、この機会に検討いただければと思う。
*認証事業者、認証申請中の広告事業者も無料で受講可能

 

 

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